逢あひあらば
のち離はなるるを
知しりつつも
目めに見みえぬ間まに
とく往いににけり


現代語訳

出逢いがあれば、いつか別れが来るものだと分かってはいながらも、
目に見えないほどのわずかな間に、あまりにも早く去ってしまったのだなあ。


ことばがき

妊娠初期の自然流産は珍しくないと言いますが、私たち夫婦も避けることはできませんでした。「Vita」という胎児ネームをつけて毎日呼んでいたのですが、今は遠いところで安らかに過ごしてほしいと願うばかりです。この歌は「Vita」へ贈る歌です。


勉強・雑談

  • あらば:ここの「ば」は「仮定条件」なので、「あり」の未然形「あら」に付いています。
  • 離るるを:「離るる」は「離る」の連体形です。「るる」の形は結構可愛いですね。動詞はこのように連体形のかたちのままで、体言のように用いることができ、これを「準じゅん体たい法ほう」と呼んでいるそうです。(参照)
    • 「逢ひあらば、のち離るるを」は勿論、「会え者しゃ定じょう離り」のことです。百人一首の中で会者定離の歌として知られているのは蝉丸せみまるの10番です。この歌も大好きで、いつか「逢あふ坂さか」に行ってみたいですね。

これやこの
行ゆくも帰かへるも
別わかれては
知しるも知しらぬも
逢坂あふさかの関せき


  • とく:「すぐに」「急いで」または「すでに」「とっくに」などの意味の副詞です。
  • 往ににけり:「往ぬ」の活用は【な未然/に連用/ぬ終止/ぬ連体る/ぬ已然れ/ね命令】で、「にけり」が付くため連用形「往に」になっています。「にけり」は完了の「ぬ」+詠嘆の「けり」の組み合わせです。